「ブランディング」の手段は、洗練されたブランドロゴや記憶に残るキャッチフレーズだけに限りません。
会員登録ページや入力フォームに付けるような、ちょっとしたマイクロコピーも、ブランディングに大いに役立ちます。
例えば、Bandcampアプリのレビューを求めるマイクロコピーはユニークです。
「Bandcampアプリの評価をしますか?(コホン)星5つ」
思わずクスッとしてしまいますが、ブランドのキャラクターがよく伝わり、親近感が湧きますよね。
スタンフォード大学教授クリフォード・ナスの報告によれば、メッセージの中にユーモアがあると、人々は自己肯定感を高め、相手からの提案を受け入れて協力的に動こうとすることが分かっています。
機械的なコピーの代わりに、人間らしいユーモアのあるマイクロコピーを使うことで、ユーザーと良好な関係を築くことができるのです。
今回は、ユニークなマイクロコピーをブランディングに活用した6つの参考事例をご紹介します。
目次
ブランディングと「ボイスアンドトーン」の設定
ブランディングに活用するマイクロコピーを考える前に、まずはサイトの「ボイスアンドトーン」を設定する必要があります。
「ボイスアンドトーン」とは何か?
コピーライティングにおける「ボイス」とは、実際の人の声のように、変わることのない一貫性を持ったものです。
文章にボイスを設計することで、企業、ブランドの個性やキャラクターを表現します。他社との差別化になるだけでなくブランディングの一面を担います。
「トーン」とは、文章に情緒的な抑揚を持たせるものです。もしトーンがなければ、ロボットのように無機質な文章になってしまいます。
例えば、上司と話すときのトーンと、友人と話すときのトーンが異なるように、場面や相手に応じてたえず変化するものです。
ボイスアンドトーンは、企業、ブランドによって様々です。例えば、以下2つのブランドでは、同じ「ユーザーに生年月日の入力を求める理由」について説明していますが、伝え方が全く違います。
■誠実で真面目な社風のナイキ(Nike)
「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)を順守するために必要です。」
■ユニークなヴィンテージ品を販売するJ・ピーターマン
「すみません、私どもの弁護士に聞けと言われたので。」
ボイスアンドトーンは、4つのステップで簡単に作ることができます。
詳しくは、こちらの「ボイスアンドトーンの作り方」をぜひご覧ください↓
マイクロコピーに一貫性を持たせるためにも、ボイスアンドトーンはできるだけ早い段階で設定しておくことがおすすめです。
ブランディングのためのマイクロコピー事例6つ
マイクロコピーを上手くブランディングに活用している、6つの事例をご紹介します。
ログイン画面のマイクロコピー
ゲーマー向けのコミュニケーションツールDiscordは、ログイン画面でユーザーを熱烈に歓迎してくれます。
「おかえりなさい!またお会いできてとてもワクワクしてます!」
さすがコミュニケーションツールというだけあって、UXライティングからもコミュ力の高さが伝わってきますね。
スマホアプリを使う人のためにQRコードが用意されているところも親切です。
また、ログインに失敗したときによく見る無機質な「私はロボットではありません」というチェックボックスも、Discordでは和やかな雰囲気になります。
「おかえりなさい!ビーッビーッ?」「私は人間です」
ブランドのスタンスを表すマイクロコピー
ファッションブランドReformationでは、持続可能性と環境に対するスタンスを、親しみやすいトーンで表現しています。
「ときどきあなたは少し繊細になることがありますよね。さて、この素材はいつも繊細なんです、だから手洗いをしてください。おしゃれ着用洗剤を使って、赤ちゃんのように平らに寝かせて干していただくのがベストです。手洗いは環境にも良いですしね。」
参考:https://www.thereformation.com/
エラーメッセージのマイクロコピー
エラーメッセージも、適度なジョークで、ピリッとした雰囲気を和らげることができます。
アメリカのYahoo!では、生年月日を入力ミスしたときにこんなメッセージが出てきます。
「本当に未来からきたんですか?」
価格表記のマイクロコピー
teuxdeux.comでは、「定期購入の月額/年払い」の退屈な価格表記をマイクロコピーでユニークに見せています。
「疑い深い人 月額3ドル」
「信者 年額24ドル」
商品説明のマイクロコピー
ユーモラスな声のトーンで知られるDollarShaveClubは、商品説明の中にこんなジョークを混ぜています。
「この刃は未来から来て、宇宙に住んでいます」
「動物実験ではなくインターンでテストしました」
商品とは全く関係のないジョークですが、思わずクスッと笑えて印象的です。
ユーモアを入れる際の7つのヒント
マイクロコピーにユーモアを入れることは、ユーザーに行動を促したり、関係性を強化するのに有効な手段です。
しかし、ユーモアや風刺は、間違えると逆効果になることもあります。
UXライティングの第一人者キネレット・イフラは、著書『UXライティングの教科書ーユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方』の中で、マイクロコピーにユーモアを取り入れるための7つのヒントをあげています。
①ブランドの個性に合わない言い方をしない
そのブランドにとってどのような価値が、なぜ重要なのか?また、ブランドやプロダクトが愉快な表現が似合うようにデザインされているか?確認しておくこと。
例えば、「共有」という価値を広く伝えたいなら、風刺的な表現はユーザーを遠ざけかねません。
②ターゲットに受け入れてもらえるように
言葉のチョイスが、ターゲット顧客の属する文化圏や年齢層と合致しているか?コアユーザーに対してどんなユーモアが通じるかをきちんと見極めることが大切です。
③ユーモアだけにならない
ライティングのスタイルについて印象に残るのがユーモアだけだとしたら、何かがずれています。マイクロコピーはブランド価値に応じて多種多様な味わい(ノスタルジック、ほのぼの、キレの良さなど)が表現できるものです。
④トゥマッチにならない
一番大切なのは、ユーモアの適量をわきまえること。グーグルは、自社のボイスアンドトーンについてこう語ります:森に一角獣がいるなら(それで十分)、フラフープができる(芸達者な)サルは要りません。
⑤わかりやすさを犠牲にしない
ユーザーが途中で止まってもう一度読み直さないと理解できないようなら、それは書き方に問題があります。
⑥状況をよく考えて
「うわ、システムがクラッシュ!どうしてこんなことが起きたのか、まったく見当がつきません。データは未保存、最悪です、全部消えました!でもまあ、アフリカにはインターネットを使うことさえできない子どもたちがいますからね」…こんな言い方では笑えません。
⑦ジョークを詰め込みすぎない
ジョークを詰め込みすぎると、ユーザーはきっとうんざりしてしまいます。ジョークはおそらく3回目くらいで楽しめなくなるものです。
まとめ
今回は、マイクロコピーをブランディングに活用する方法と参考事例をご紹介しました。
マイクロコピーにユーモアを取り入れることは、ユーザーに行動を促したり、関係性を強化するのに有効な手段です。
まだまだ日本国内のサイトで目にする機会は少ないため、競合他社と差別化するには今がチャンスかもしれません。
ユーモアの加減に注意しつつ、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか?
参考:『UXライティングの教科書ーユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方』』キネレット ・イフラ著、仲野佑希監修、郷司陽子訳、翔泳社)
参考:https://econsultancy.com/15-marvellous-microcopy-examples-and-how-they-improve-ux/