【翻訳記事】収入を3億ドル増やすボタン by Jared M. Spool

事例, 考え方

著者:Jared.M.Spoolについて
ジャレッド・M・スプールはCenter CentreとUIEの創設者。2016年にレズリー・ジェンセン・インマンと共同でテネシー州チャタヌーガにデザイン学校であるCenter Centreを開校し、産業に活かせる次世代のUXデザイナーを育成している。ジャレッドのUXの経験とレズリーの経験豊かな学習法の専門知識を活かし、職業トレーニングに革新的なアプローチを用いている。
この記事はUIE.comからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています

 



[ルーク・ウロブルスキーが今や多くの人に読まれている『Web Form Design: Filling in the Blanks』(仮邦題『入力してもらえるウェブフォームデザイン』)を執筆していた際に、フォームデザインを変えて業績が飛躍的に良くなった例はないかと尋ねてきました。「収入を3億ドル(約300億円)増やすボタンのようなものか?」と聞くと「そうそう、そういうやつ」というので、彼の著書のためにこちらの記事を執筆しました。]

ボタンを変えるだけで収入を年間3億ドル増やす方法

入力欄が2つ、ボタンが2つ、リンクが1つというフォームをさらにシンプルにするのは難しそうです。しかし、ある大手通販サイトでは、このフォームのせいで年間3億ドル分もの購買を逃していたことが分かりました。さらに悪いことに、デザイナーはサイトに問題があることにすら気づいていなかったのです。

フォームはとてもシンプルで、メールアドレスとパスワードの入力欄とログインと新規登録のボタン、そしてパスワードを忘れた方はこちらというリンクがあるだけでした。これがユーザーが毎回見ることになるサイトのログインフォームなのですが、特に問題なさそうですよね?

レイアウトやフォームを表示するタイミングは問題ありませんでした。ユーザーが欲しい商品をショッピングカートに入れ、購入ボタンを押すとフォームが表示されるようになっていました。実際に支払い情報を入力する直前ということです。

サイトの制作チームとしては、次からもっと簡単に買い物をしてもらいたいと思ってログインフォームを作りました。このため、初めての買い物でサイトに登録するくらいの手間は厭わないと思っていたのです。登録を済ませておけば次回からの買い物が楽になりますからね。サイト側にとってもユーザーにとっても便利ですよね?

 

「関係を築くためにサイトを利用しているわけではない」

サイトで買い物する予定がある人達に協力してもらってユーザビリティのテストを実施しました。買い物リストを用意してもらった上で、お金を渡して買い物してもらうというものです。要するに買い物を済ませるだけのテストです。

テストの結果、新規顧客が登録を厭わないという考えが間違いだと分かりました。サイトへの登録は嫌がられたのです。彼らは買い物をするために登録が必要だと分かると不快に感じていました。買い物客の一人はこう言ったのです。「登録して関係を築くためにサイトを利用しているわけではない。商品が買いたいだけなんだ。」

サイトで買い物するのが初めてかどうかを覚えておらず、普段使っているメールアドレスとパスワードを入力してログインできずに苛立っている人もいました。私たちはこの様子を見て、登録への抵抗の大きさに驚いたのです。

登録ボタンをクリックしたユーザー全員が、登録に必要な情報が何か知らない段階で諦めモードになっていました。多くの人が小売業者が広告を送りつけるために顧客の情報を収集しているとも思っていました。また、プライバシーを侵害するための悪巧みに使われると思い込んでいる人もいました。(実際にサイトの登録で必要なのは名前や送り先、請求書の住所、支払い情報といった購入に関わる事柄だけなのですが)。

既存顧客にも喜ばれていなかった

既存顧客にとってもログインフォームは嫌がられていました。ログイン情報を覚えている少数の人を除いて、ほとんどの人がログインでつまずくことになるからです。顧客はどのメールアドレスとパスワードを使ったのか覚えていないのです。特にどのメールアドレスを登録したのかが問題です。ほとんどの人が複数のメールアドレスを持っていますし、何年か経って変更することもありますからね。

メールアドレスとパスワードを忘れている場合、思いつきで何度も試すことになります。しかし大抵は上手くいきません。パスワードをメールアドレスに送るようサイトに問い合わせる人もいますが、そもそもどのメールアドレスを登録したか覚えていないとどうしようもありません。

(後に小売業者のデータベースを分析したところ、45%もの顧客が重複してシステムに登録していることが分かりました。1人で10回も登録している人もいました。また、パスワードの問い合わせ数を調べてみたところ、1日に16万件もの問い合わせがあることがわかりました。そのうち75%がパスワードを問い合わせておきながら購入の手続きを完了していませんでした。)

買い物の利便性を高めると思っていたフォームが、ごく一部の人にしか役立っていないことが分かりました。(このごく一部の人ですらアドレスやクレジットカードの変更の度に情報を更新しなくてはならないので不便に感じていました)。それどころか、ログインフォームがあることによって売り上げを逃していました。しかもかなり大きな額だったのです。

3億ドルの収入を取り戻すには?

デザイナーはシンプルな方法で問題を解決しました。登録のボタンを無くしたのです。その代わりに続けるというボタンにして簡単なメッセージを添えました。「買い物をするためにアカウントを作成する必要はありません。続けるのボタンをクリックして支払いを済ませてください。今後の支払いをもっと簡潔にしたい方は、支払いの段階でアカウントを作成することもできます」。

フォームを変更したことで売り上げは45%アップしました。金額にすると1ヶ月で1500万ドル(約15億円)のプラスです。フォームを変更した初年度は収入が3億ドル(約300億円)のプラスになりました。

250億ドル(約2兆5000億円)規模の小売業のCEOから留守番電話にメッセージが入っていました。ログインフォームを変更したところ、初めの週の売り上げが過去最高になったというのです。彼からのメッセージは「スプール!最高だよ!」というシンプルなものでした。長々としたメッセージは要らないのです。だって必要なのはボタンを変えることだけなのですから。


引用元:https://articles.uie.com/three_hund_million_button/
2009年1月14日 The $300 Million Button by Jared M. Spool

 


この事例から学べることはただ1つ、購入プロセスをシンプルにすること。特に「会員登録せずに購入する」の選択肢の有無は、ECサイトでは購買率に大きな影響を与えます。このルールはWebサービスや、会員制サイトにおいても同様です。中身(コンテンツ)をユーザーに見せることなくログインウォールで遮ってしまうと、興味を引くことなくそのままユーザーの離脱を招く可能性があります。K.I.S.Sの原則「Keep it simple, stupid( =シンプルにしておけ! このバカ)」に従って、購入プロセスを設計してみてください。

 

 

 

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