行動経済学(Behavioral economics)とは、経済学のモデル理論に心理学を取り入れた研究手法です。
消費者の心理傾向を踏まえ、効果的に購買意欲を刺激するマーケティング手法は、実際に多くのECサイトやLPで活用されています。
今回は、マーケティングに活用できる11の効果的な行動経済学のテクニックについて解説します。
目次
行動経済学とは
行動経済学とは、一言で言えば経済学と心理学を組み合わせた学問です。
人間の行動は合理的ではなく、感情や心理に影響されることが多いため、行動経済学は従来の経済学だけではなく心理学的エビデンスに基づく理論を構築することを目指しています。
行動経済学を学ぶことにより、人間の行動を読み取ったりコントロールする技術を、マーケティングやビジネスの分野で活用することが可能です。
マーケティングに活用できる行動経済学
行動経済学を取り入れることは、通販サイトやLPの売上改善に効果的です。
例えば、カート機能の改善やキャッチコピーの改善、ページのレイアウトの改善、商品の説明文の改善、購入ボタンの配置の改善、レビューの活用、ポイント制度の導入、顧客の心理的ニーズに合わせた商品の提供、セールの提案、ポイント還元の提案など・・・様々なシーンで行動経済学を活用できます。
マーケティングに活用できる11の行動経済学を以下に紹介します。
権威性の法則
「権威性の法則」とは、人々が権威のある人物や情報源からの指示や意見に従いやすいという心理的な傾向を指す法則です。
この法則を活用することで、ビジネスやマーケティングにおいて影響力を持つことができます。
具体的には、Webサイトに権威的な人物の写真や推薦文を載せたり、賞のエンブレムを載せたり、そのサービスを利用している有名企業のロゴを並べたり、といった方法です。
例をあげると、CRMツールを提供するZohoではこのように獲得した賞と利用企業のロゴをファーストビューに入れています。
このように、権威性の法則を使うことで、その商品やサービスの信頼性を高めてCVRを上げられます。
権威性の法則の成功事例や具体策は別記事で詳しくまとめているので、こちらの記事を参考に実践してみてください。
フレーミング効果
「フレーミング効果」とは、どこを強調して表現するかによって問題の印象が変わり、意思決定が影響される現象です。
例えば、「1,980円」を「1日あたり66円」と言い換えることでリーズナブルに感じられる、というのはフレーミング効果の典型的な例です。
客観的事実は同じでも、言い方や見せ方を工夫するだけで顧客の印象を簡単に変えられます。
フレーミング効果を使った売上改善アイデアはこちらの記事で7つ紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
行動経済学の裏ワザ「フレーミング効果」で簡単に売上アップする7つの方法
カリギュラ効果
「カリギュラ効果」とは、ある行動を禁止・制限されると逆に興味が湧いてやってみたくなる心理現象のことです。
カリギュラ効果はマーケティング分野でも利用され、商品の需要を高めるために、あえて「禁止」や「限定」を設けることで、逆に興味を引き、購買意欲を高めることができます。
例えば、有名なエピソードの一つに「雪国もやし」があります。
前代未聞の大ヒットを飛ばした高級もやしなのですが、ヒットのきっかけとなったCMソングというのが「♪雪国もやしはめちゃめちゃ高いからみんな絶対買うなよ~♪雪国もやし!」というものだったのです。
カリギュラ効果はWebサイトや広告にも活用しやすいので、こちらの記事を読んでぜひ売上アップを目指してください。
「禁断のカリギュラ効果」行動心理学を売上アップに活用する方法とは?
シャルパンティエ効果
「シャルパンティエ効果」とは、同じ重量の物体を比較した際に、体積が小さい方をより重く、体積が大きい方をより軽く錯覚してしまう心理効果のことです。
例をあげると、1kgの鉄球と1kgの綿を比べたときに、実際は同じ重さなのに体積の大きい綿の方が軽く感じる、といった錯覚です。
マーケティングにも活用されており、例えば、「1,000mgのビタミンC」を「レモン50個分のビタミンC」と言い換えることでよりイメージしやすく、よりビタミンCがたくさん入っている印象を与えられます。
参照:https://www.suntory.co.jp/softdrink/cclemon/
シャルパンティエ効果の具体的な3つのテクニックについてこちらの記事で解説しているので、参考にしていただけますと幸いです。
小さな表現の違いで売上を大きく変えるシャルパンティエ効果とは?思い通りに印象を操る心理学
損失回避の法則
「損失回避の法則」とは、人が利益と損失の二つから一つを選ぶ際に、利益を求めるよりも損失を避ける方を選ぶ心理傾向のことです。
人は無意識に、得することよりも損することを避けようとするため、マーケティング分野でも利用されています。
例えば、購入しない場合のデメリットを伝えることで、購買意欲を高めることが可能です。
また、損失を肩代わりしてあげることで損失を気にせずに購入できるようにする、というのも損失回避の法則を上手く使った例です。
例えば、Nortonのサイトには「60日間返金保証」が大きく書かれています。
「60日間の返金保証は、製品に対する自信の表れです。」というコピーも素晴らしいですね。
損失回避の法則を使った具体的なマーケティング手法についてはこちらの記事をご覧ください。
マーケティング豆知識!顧客の心を刺激する損失回避の法則とは?
バンドワゴン効果
「バンドワゴン効果」とは、他人が持っているものや利用しているものに興味を持ち、自分も同じものを持ちたいと思う心理現象のことです。
「129万人が選んだ〜」「累計販売数1億突破」といったコピーで多くの人が利用していることをアピールすることにより、購買意欲を高められます。
例えば、オーダーメイドシャンプーMEDULLAのLPには「MEDULLAブランド累計販売数3,000,000本突破!!!」や「39秒に1本売れている!」というコピーが使われています。
バンドワゴン効果を学んで売上アップを目指すならこちらの記事がおすすめです。
バンドワゴン効果とは?大衆心理を利用して購買意欲を高める3つのポイント
スノッブ効果
「スノッブ効果」とは商品に希少性や限定性がある場合に、その価値を高く見積もってしまうという心理現象のことです。
バンドワゴン効果とは反対に、他者の消費が増えるほど需要が減少する現象とも言えます。
例えば、高級腕時計のSEIKOのオンラインストアでは商品ページに「数量限定500本(うち国内150本)」と記載することで希少性をアピールしています。
参照:https://store.seikowatches.com/
また、「オーダーメイド」「あなただけの〜」といった言葉もスノッブ効果を上手く使った例です。
生産数が少ない商品やオーダーメイド品を販売するならスノッブ効果を取り入れることをおすすめします。
こちらの記事でスノッブ効果の具体例と解説をしているのでぜひ読んでみてください。
行動心理学をマーケティングに活用!「欲しい」と思わせるスノッブ効果を使ったマイクロコピー
アンカリング効果
「アンカリング効果」とは、最初に与えられた数字や情報(アンカー)が、その後の行動に影響を与える心理現象のことを指します。
例えば、セール価格を載せる際に元の価格をわざと残しておくことで、お得に感じさせることが可能です。
実例をあげると、無印良品のオンラインストアのセール商品にはこのように「2,990円→消費税込みで1,990円」といった表記がされています。
参照:https://www.muji.com/jp/ja/store
アンカリング効果の具体例や使う際の注意点についてはこちらの記事をご覧ください。
お得感を際立たせて購入へ促す認知バイアス!アンカリング効果の3つのポイント
おとり効果
「おとり効果」とは、2つの選択肢の間でどちらにしようか迷っている消費者に対して、「どちらかに対して明らかに劣った」第3の選択肢(おとり選択肢)を提示した場合に、消費者が特定の選択肢を選ぶようになる傾向があることです。
例えば、クラウド会計システムを提供するfreeの法人向け料金プランです。
ミニマムプランとベーシックプランで迷うであろう選択肢に、料金がベーシックプランの10倍もするプロフェッショナルプランを「おとり」として使っています。
引用:https://www.freee.co.jp/accounting/small-business/
こうすることで「ベーシックプラン」を選んでもらいやすくなります。
さらに、色を強調したり、「もっとも選ばれています」と文字を入れてアピールすることで効果を高めています。
「おとり効果」の効果的な使い方や具体例をもっと知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【おとり効果とマイクロコピー】 行動経済学を活用した買ってほしい商品を選んでもらう技術
ナッジ理論
「ナッジ理論」とは、英語で「ひじで軽くつつく、そっと後押しする」という意味の言葉です。報酬や罰則・ルールで行動を強制したりすることなく、小さなきっかけで人々の行動や意思決定に影響をあたえる手法のことです。
例えば、ストックホルムの地下鉄駅で行われた実験です。
健康増進のためにエスカレーターでなく階段を使ってもらうため、階段をピアノの鍵盤に見立てて登ることで音が奏でられる仕掛けにしました
引用:https://www.youtube.com/watch?v=2lXh2n0aPyw
結果、通常に比べて66%も多くの人が階段を利用するようになったそうです。
このように、行政や企業などで取り入れられ結果が出ているナッジ理論を、どうやってビジネスで活用していくのかを「EASTフレームワーク」というツールに沿って解説しました。
【ビジネスにおけるナッジ理論】EASTフレームワークの効果的な活用方法を具体例を交えて解説
ウィンザー効果
ウィンザー効果とは「第三者が発信した情報のほうが信頼されやすい」という心理効果のこと。「アットコスメ」や「食べログ」などの口コミサイトも、ウィンザー効果を活用した代表例です。日本最大級のグルメサイト「食べログ」では、以下の3つの要素が相乗効果を生み信頼感・信ぴょう性を高めているのが特徴です。
- 利害関係のない第三者が評価・口コミをしている
- 評価者・口コミの掲載数が多い
- 評価者にアカウントがあり、投稿者の情報が確認できる
「ウィンザー効果」を販売戦略に取り入れる具体的な活用実例は、こちらの記事をご覧ください。
行動経済学を学ぶのにおすすめの本
これから行動経済学を学ぶ方におすすめの本を3つご紹介します。
どれも初心者に分かりやすく実践的な内容なので、ぜひ本で学んだ内容をビジネスに活かしてください。
『予想どおりに不合理』
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』
ダン・アリエリー(著)、早川書房
『予想どおりに不合理』は、行動経済学の第一人者であるダン・アリエリーによる行動経済学の入門書です。
「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」など、人間の不合理的な行動とその背景にある心理的メカニズムについて解説しています。
また、これらの心理的バイアスを活用したマーケティング戦略についても触れており、ビジネスパーソンにとって役立つ内容の本です。
『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』
『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』
中村 和正(著)、エムディエヌコーポレーション
『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』は、「認知心理学」と「マーケティング心理学」の2つの視点から、どのような状況で人の心理が作用するかについて解説した書籍です。
また、心理効果をデザインやUI、マーケティング施策に生かす実践的な方法についても紹介されています。
身近なエピソードを交えながら解説されているため初心者でも分かりやすい内容です。
『ビジネスデザインのための行動経済学ノート』
『ビジネスデザインのための行動経済学ノート バイアスとナッジでユーザーの心理と行動をデザインする』
中島 亮太郎(著)、翔泳社
『ビジネスデザインのための行動経済学ノート』は、行動経済学をビジネスデザインに活用することにフォーカスした本です。
商品とユーザーとの関係に行動経済学の理論を活用するためのアイデアについて、デザイナー視点で解説されています。
イラスト付きでシンプルにまとめられているため、気軽に学びたい方におすすめです。
まとめ
マーケティングの目標は顧客の行動を変え、商品やサービスの購買や利用を促進することであり、行動経済学はその理解に役立ちます。
それぞれの心理や条件を把握し、効果を引き出すための方法を理解することで、効果的な施策が可能です。
自社の商品やサービスに適した行動経済学を用いて、ブランドイメージの認知拡大や売上アップを目指してみましょう。
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